・〜いのちのおと〜・

……
………

突然その日はやって来ました…



9月14日 18時40分…仕事中に工実からの一本の電話。
工実:
【お腹が急に痛くて腰も痛い…】と…
家には、お袋が下の階に居たので電話して病院に連れてってくれと一言。

それからすぐ車に乗せてもらい病院まで直行。
車の揺れによる痛みに耐えながら車を走らせ20分程で到着…早速診察に向かいエコー、心音など調べる事に。

そして…40分後また嫁から着信が…
嫁【切迫早産気味だから点滴打って安静に…】

急に電話口の人が変わり…

助産婦『今は痛みを和らげる点滴を打って…』

またまた急に電話口の人が変わり…
院長 黒田先生:
『切迫早産気味で初期の陣痛の痛みが来てるけど、とりあえず様子見で2〜3日入院して痛みが引けば退院して大丈夫だよ!…だから心配しないで大丈夫だからね。』…と安心して大丈夫との言葉。


でも入院だろ??それなら色々用意しないと…と思い連絡しようと途中嫁へLINEを打つ。
{入院だけど一度家に帰って着替えとか持ってくる?それとも病院行った方がいい??}…と問いた内容。

すると数分後…嫁からLINEが。。。

{ありがとう  今すぐ来て  会いたい}
…と、いつもと雰囲気の違うLINE内容…

仕事を切り上げて…
慌てて車のエンジンを掛け車を走らせ、なないろに向かう!

駐車場に着き、車から降りて走り…玄関のインターホンを押し2階へと通され処置室に案内された。

処置室にある部屋に通されると…薄暗い所で点滴をして横たわる嫁の姿が…


静かに癒しの音楽が流れて赤ちゃんの心音、陣痛の痛みの波長グラフがモニターと紙に移されてる。。。
赤ちゃんの心音も…ゴォゥゴォゥ…と連続して聞こえる…
赤ちゃんの心拍は早くこの音は元気な証拠!

すぐさま横に行くと安心したのか…嫁は泣きながら、不安そうな顔でオレを見る。

和男:
【大丈夫だよ!きっと早くママとパパに逢いたいんだよ!】…と。
工実:
【うん…きっとそうだよ☆ 色々準備してるの知ってるからかもねw】…と冗談交じりに色々会話を。。。

…数分後…院長先生が来て詳しく説明してくれた。

その内容は…
院長先生:
『何らかの細菌が入って赤ちゃんを出そうとしてる信号が出てるから、お腹の張りと同時に赤ちゃんの心拍が少し弱まる傾向が出てるね…ただ2000g以下で34週だと呼吸器は発達してるけど、もしかすると自発的に呼吸が出来ない場合があるから…これ以上張りや陣痛が続くようなら大学病院に搬送になるからね。
ここには人工呼吸器が無いから…
大事をとっての判断だから心配しないでね!』…と言う内容でした。


私達は不安な気持ちになりながらも張り止めの点滴を打ち…筋肉注射も肩に打ち、張りと痛みが和らぐのを待った。。。
もちろん!なないろで産みたい嫁も同じ気持ちで…


…5分…いや…10分は経過したと思う。


工実が腰を強くさすってくれと…
痛みのグラフを見ると、痛みの感覚が狭まってるのが素人でも分かるぐらいでした。
扉が開き再度院長先生が来て一言…

院長先生:
『本格的な陣痛に変わってきたね。このまま産まれるようなら大学病院の方が安全だから、さっき救急車を呼んだから移動しよう!
これは母体、お腹にいる赤ちゃんを思っての決断だから!』…と。

院長先生:
『旦那さんは今すぐ向かって先に手続きして待ってて!奥さんは助産師さんを付けて大学病院に向かわせるから』
と言われ…嫁が持ってきた荷物を抱え走って車まで向かい大学病院まで吹っ飛ばして行きました。


10分後…大学病院到着


まだ救急車は来てない様子。。。
救急入口まで急いで向かい話をすると…連絡が来てるようで入院する手続きの書類や駐車場のパスカードの申請書類など色々渡され記入。

数分後…救急車が到着し出口に向かうと搬送されたストレッチャーに乗った嫁の姿が。。。
不安そうな顔で救急搬送口から運ばれてくのを見守る俺…

手続きする書類に記入が終わり渡して5分後…
救急係り:
『奥様が居る所まで案内します』
との事。……すると道順が書いてある紙きれ1枚渡され、すぐ向かって下さいと一言。。。

入院する荷物を持ち言われた5階の病棟までエレベーターで上がると…看護婦さんが待っていました。

看護婦:
『冨田さんですね?こちらへどうぞ』
と通された所は家族待合室と書かれた部屋。
そこで待つように言われ持ってきた入院用の荷物を置いて一呼吸。。。


すると1分後…


さっき案内してくれた看護婦がすぐ現れ…

看護婦:
『冨田さん!予定が変わりました。緊急で帝王切開しますので…こちらへ来て下さい』
…と言われ、頭の中は真っ白のまま…すぐさま荷物を抱え着いて行くと“周産期母子医療”と書かれてる病棟。
扉が開き2個扉をくぐった案内された場所…それは運ばれて来た嫁がエコーや赤ちゃんのゴォゥゴォゥ…と心拍を聞いてる処置室でした。

看護婦さん医師共に走り回り…看護婦同士がぶつかる場面もあり、慌ただしい雰囲気の空間でした。
(安全の為…入院するのに来たのに帝王切開??  …え?!)

…と俺の心の中はゴチャゴチャで何が何だか分からない状態でした。。。

バタバタしてる中、1人の医師が現れ…
医師:
『旦那様ですね?
落ち着いてよく聞いて下さい!
何らかの理由で赤ちゃんの容態が危険な状態です。このまま通常分娩(陣痛を待ち子宮口が10cm程開く)まで待つには不安が沢山あります。
もちろんお母さんの血圧も上がってるので母体の危険な状態を避ける為でもあります。
なので…緊急ですが帝王切開をして赤ちゃんを早く取り出してあげましょう!』
…と問われ…

和男
【嫁と赤ちゃんをよろしくお願いします!!…それと今嫁に一目逢えないですか?】と問うと…
医師:
『今帝王切開をする為に準備中ですので手術室まで行く際に逢えますので、少しお待ち下さい』
…と言われバタバタ動き回る看護婦、医師を見ながら不安ばかり募る俺。。。

数分後…

処置室からストレッチャーで運ばれて来る嫁が、すぐ目に入りすぐさま飛び出し工実の手をギュッと握り【頑張れ!】と一言。。。
運ばれて行く工実の顔は不安一杯で唇を噛み締めながら【うん!】と小さな声で頷きながら手術室へと…

他にもっと声掛けてあげたかったのに…それ以上慌てた様子で運ばれて行く嫁の姿を見ると息がつまり胸が苦しくなりました。。。


脱力してる俺に声掛けてくれたのは…さっきの看護婦でした。
看護婦:
『これは賢明な判断だと思います。このままの状態ならお腹の赤ちゃんが危険な状況になりかねませんから。
先程の待合室でしばらくお待ち下さい』

その後すぐ待合室まで向かい…待っていると、おふくろが荷物を抱え家から吹っ飛んできたみたいで合流。

…これまでの経過を話し手術が成功する事だけを願い2人で待ちました。


…30分。…1時間。…1時間30分…

待っても待っても看護婦さえ来ません。
不安は募るばかり…

時計を見ると時間は0時25分。。。

待合室に通されてから1時間45分後。


さっきの看護婦が現れ…
看護婦:
『色々記入してもらいたい書類があるのでお願いします!』と…

(それだけ?? 赤ちゃんは?…工実は???大丈夫なのかよ!!)…と思い思ったのが言葉になり…

和男:
【嫁の帝王切開は大丈夫だったんですか??赤ちゃんは…?
なんで誰も言いに来ないんですか?!】

すると看護婦は…
看護婦:
『赤ちゃんはお腹の中から取り出して産科の先生が付きっ切りで見てます。
奥様は今帝王切開したお腹を縫い終わり、少ししたら場所を変えると思いますので移動したら声掛けに来ますのでお待ち下さい』

和男:
【産まれた赤ちゃんは大丈夫なんですよね??…嫁の出血とかも大丈夫ですよね?!】

看護婦:
『赤ちゃんは産科の先生が付きっ切りで見てます。なので後で産科の先生からお話があると思います。
奥様は意識もあり今の所大丈夫です』

ホッとした自分も居たが…不安を隠しきれない自分も居ました。。。


…15分後…


扉にノックがあり、入って来た人…それはさっきの帝王切開をする説明をした医師と別の看護師でした。
隣にある応接室に通され…手術の結果を伝えられる時が。。。

医師:
『冨田さん。先程緊急帝王切開の説明をしたと思いますが』…と、さっき言われた事を同じく言われ…
『帝王切開した後の事を申し上げます。
まず母体の件から…
何らかの理由でお腹の張りに合わせて赤ちゃんの心拍が下がる理由…それは母体の胎盤にそれらしきものがあるのが確認出来ました。…それは“早期胎盤剥離”と言うもので通常は赤ちゃんを産んでから少しずつ剥がれていくのが、赤ちゃんがお腹にいる状態のまま部分的に胎盤が剥がれていました。
それが原因で赤ちゃんに十分な酸素が届かず、モニターの様なグラフを示したのと思われます。
一つの原因が…奥様の血小板の値が著しく少ないからかと思われます。
普通20万程ある血小板の値が奥様の場合7万弱の値しかありません。
これらの理由もあり、一部の胎盤が剥がれ赤ちゃんに酸素が行かなくなり急な陣痛を起こした理由の一つでもあります』

…と衝撃的な内容。


和男:
【それは分かりました!嫁は…赤ちゃんは大丈夫なんですか?!】と問うと…

医師:
『今奥様は手術を終え部屋に向かう準備をしております。意識もあり手術は成功しました…
ですが赤ちゃんは思ってたよりも小さいです。…赤ちゃんは産科の先生が見てます。ですが先程手足をバタバタさせてると報告がありましたが、詳しくは産科の先生から詳しい話があると思いますのでお待ち下さい』…と。

和男:
【一つの手術室で嫁と赤ちゃん…どっちも居たのに分からないんですか?!】

医師:
『もちろんその場で赤ちゃんを取り上げましたが緊急を要する為、産科の方に行きましたので…詳しくは産科の先生じゃないとハッキリ言い切れませんので』と。。。


これ以上言っても科が違ければ発言出来ないのも分かったので応接室を後にして待合室に戻り嫁が病室に戻るのを待ちました。


10分後…扉にノックが。
現れたのは別の看護婦で…

看護婦:
『奥様が病室に戻られましたのでどうぞ』と。

荷物を抱え早歩きで看護婦の後を着いて行くと…産科病棟へ入り少し進むと右にナースステーション。
その左側に。工実の名前が書かれた札が…
急いで入ろうとすると、部屋の方から声が。。。


小さく…震えかすれた声で…

【パパは?…パ…パパは何処??何処に居…るの??】

ハッキリ俺には聞こえた…くぅだ!!
…と思い部屋に入り、工実の元へ行き手をギュッと握りました。

全身麻酔で感覚が無いのか手を握ってるのも分からず…

工実:
【パパは? …パパ…】と震えた声で点滴の様子を見る看護婦に言い続ける嫁。

大きな声で
和男:
【ここに居るよ!大丈夫…ママの傍に居る!!】
と言うと、ゆっくりこっちを向き始め

俺が居たのが分かったのか…嫁は泣きじゃくりながら…

工実:
【ごめん……ごめんね…】
和男:
【どした?】
工実:
【ごめん…臍の緒切れなくて…】
……
工実:
【ほんとごめん〜…】
と普通分娩出来なかった事に…只々自分を追い詰めてる様子でした。

和男:
【ママ!大丈夫。ホントお疲れ様。
良く頑張ったね!!
何で謝るの〜?謝らないで…赤ちゃんはウチらの元へ来てくれたよ?】

工実:
【ご…ごめんね…】

和男:
【もう謝らないで!赤ちゃんもママとパパに逢いたがってたから出てきたんだよ?…それがダメなの??
違うでしょ!逢いに来てくれたから嬉しがらないとね!】

…と、ママはそれだけを言ってました。
それほど色々自分の中で考えてた理想の出産があったんだな!…と心底思いました。。。

工実:
【うん…  赤ちゃんは大丈夫なの?元気?】…と不安そうな声で問う。

和男:
【大丈夫だよ!さっき手足バタバタさせてるって先生が言ってたよ!自分達に似て暴れるのかね?(笑)】

工実:
【う…うん。そうだね。ウチらの子だもんね(笑)】
…と痛みながらも笑みを浮かべ、少しホッとした様子だった。


その途中も全身麻酔が抜けた痛みと子宮が縮む痛みに耐え…歯をガチガチさせながら落ち着くのを我慢して震えながら待つ嫁を見て泣きそうでした。
痛い痛いよ〜…と言いながら俺の手を握り閉め耐えてました。


少し時間が経過し落ち着きを取り戻して会話を交わし、少しでも安静にしようと思ってたのですが…
急に産科の先生が現れ話し始めました。

産科先生:
『冨田さん…今から赤ちゃんに関しての事を話しますので聞いて下さい!』

この時先生の顔色を伺いながら聞いてる自分が居て不安は頂点に達する程でした。。。

産科先生:
『まず赤ちゃんの産まれてきた時の体重ですが…34週目にしては、かなり小さめの1531gでした。
その他に…産まれた時、赤ちゃんの心拍はありませんでした…呼吸をして無いと言う事です。

産まれてすぐ…医師達の心臓マッサージにより…ほんの少しの心臓に動きが見られ、弱いながらも心拍が戻ったのを確認しそのタイミングで即、人工呼吸器を注入し今は強制的に酸素を入れている状況です。
ですが…今は自発的に呼吸もしながら人工呼吸器の力を借りて保育器の中に居ます。

呼吸がままらならないと言う事は、血流もしっかりしてません。
そこで小さな赤ちゃんでも細い血管に管を通して血を巡らせるようにしてあります。
ですが赤ちゃんの血管は細すぎる為…
赤ちゃんの細い血管を太い血管まで極細のパイプを通し血流を流す事を行ってます。
でなければ自力では呼吸はもちろん血流さえも循環出来なくなっている状況だったからです。

経過的には産まれた当初呼吸は先程言った通りしてませんでしたが…
今は皆さんが吸ってる酸素の濃度まで持って行く事が出来ているので少しずつ回復に向くと思います。
回復に向けば人工呼吸器など強制的なものは徐々に外して行きます』

……
………
雷を打たれるような衝撃的な言葉の連続でした。
心拍が無い?…心臓マッサージ…?!
えっ?何がどうなってるの?…状態でした…
正に放心状態って…こんな感じを言うのかと思うぐらい言葉が重かったです。

あれだけ胎動感じてて元気にしてる筈なのに…


そう…お腹の赤ちゃんだけが知る事がある。。。
ママのお腹の中に居る赤ちゃんだけが感じる事。。。
そう思わされた時でした…



今までの流れを色々聞いた私達2人は
この状況を飲み込むのに時間は要りませんでした。。。



何故なら…

・嫁の違和感に車を走らせてくれたオフクロ…

・なないろ院長先生が発言してくれた大学病院への大事を取っての賢明な判断…

・付き添ってくれた…なないろの助産師さん…

 ・救急車隊員の方々、救急係りの方、様々なサポートしてくれた看護師の方々…

・大学病院に搬送され帝王切開を決断し報告をもらい即座に動いてくれた大学病院の医師達…

・私達の赤ちゃんを付きっ切りで見てくれてるNICUの先生、看護師達…


……


そして何よりも…お腹の張りと腹痛の異常さに即座に気付いたママ。



この状況に関わる全ての人の尽力がなければ…この小さな光は失ってたと思います。。。


この小さな光を輝かせてくれたのは関わった全ての方々のお陰です!
心の底から感謝します!!
ホントありがとう…


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

NICUに居る我が子へ…

あなたの命は沢山の人の支えでこの世に産まれてきた証です!
その為にも…生きる事で恩返ししよう!
ママとパパの元へ来られたのには理由があるのだから…頑張れ!

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今でも耳に残ってます!

この音は一生忘れないでしょう…


[ゴォゥ…ゴォゥ…]…と言う心音



小さな光の…《ひよりの…いのちの音》を。。。


平成26年9月14日 22時57分 誕生
命名  【ひより】